とある寿司屋の揚げ物職人(フライガール)
人生23年。短期を含めると、だいたいの形態の飲食店で働いたことがあることに気づいた。
言ったらまずそうなものもあるけど、
今から書く回転寿司屋のキッチンでのアルバイトの話はごくごくまとも。
あれは高校2年生の夏休み。
17歳になる前のわたしは、回転寿司の厨房で3日間の短期バイトをした。
休憩時に8皿まで好きなお寿司が食べられるというオプションつきで、それに惹かれた。
場所は忘れたが、すぐ前を名古屋高速が走っていたのでその辺。
まだ営業していることを願う。
さてさて、回転寿司とはいえ、日本料理の世界は厳しそうだ。
もしかしたら初日は、厨房の床を磨くだけかもしれない。
わたしは時々デッキブラシの手を止めて、
職人の手から次々とシャリが生み出されていくのを眺める。
きっとあれ、量ったら全部15.3gとかなんだろうな...。
というわけで半ば緊張しながら初出勤。
ところが、厨房へ入ったわたしが目にしたのは、
ワイン樽のような機械からぽこぽこと量産される均質なシャリだった。
モニタ部分には「16g」の表示が。
なんでも、コンマ数グラムの誤差で、同重量のシャリを握ってくれるらしい。
近代合理主義の波が、日本の伝統料理の中にも...と思った瞬間でした。
もちろん、そんなヨーロッパナイズされたビジネスセンスをお持ちの方々が、
わざわざ呼んだ派遣さんに掃除なんぞをさせるわけがない。
高い時給分、即戦力としてがっつり働かせる気まんまんである。
そんなわけで、手巻き寿司くらいしか製造経験のないわたしが、
持ち場をひとつ担当することになった。
女子高生見習い寿司職人が任されたのは、揚げ物ゾーン。
もちろん、いきなり刺身包丁を持とうなどという愚かなことは考えていない。
でも、さすがに揚げ物カヨ…とテンションが下がったのを憶えている。
だってこれ、いわゆる邪道系のお寿司ではないですか…
この店での業務の基本的な流れはこうだ。
例えば18番テーブルのガキが、縞アジとミニエビフライを2皿も食べたいと泣きわめく。
すると母親が、席に備え付けられたインターホンで注文をする。
「ミニエビフライ2つと縞アジ。ぜんぶさび抜きで」
「ハーイ」
ハーイの人が手元の機械に卓番と注文品・個数を入力すると、
それぞれの担当箇所にあるプリンタに注文内容が転送される。
今回の場合だと、
鮮魚系セクションのプリンタに「18 1シマアジ 1Nサビ」というチケットが、
わたしのところでは「18 2エビフライ」というチケットが出力される。
ちなみに揚げ物ネタは標準仕様がワサビ抜きのため、上のような記載になる。
これはメインターゲットがお子様だからだろう。
湯呑み横のカゴに練りワサビが入っているから、
ませたガキはそれを自由に塗って食せばよろしい。
さてチケットを確認したら、近くの皿山に該当する金額のお皿を2枚取りに行き、
フライヤーのそばにある保温器からエビさんを4尾連れてくる。
(これはコンビニのFF什器みたいなものです)
ちなみにシャリに関しては、手元の寿司桶にストックがあるのでOK。
ごはんを並べてエビを載せ、「リボンのり」なる海苔を巻いて完成。
先ほどのチケットをつけて、箱崎JCTみたいなレーンに流すのだ。
これは有事の際の手順で、注文のない平時は適当につくって流す。
客席のレーンの状況を監視している人がいて、何かあれば、
「こんどうさ〜ん、ゲソ天、ゲソ天つくりすぎ〜」などとインカムで教えてくれるので、
速く、正確に、美しいお寿司を生産することに集中していればよかった。
というのも、揚げ物セクの手掛けるネタは10種類と幅広い。
できたフライを米のうえに並べるだけじゃねーか!こいつアホ〜
と思うかもしれませんが、
かけるタレはそれぞれ違うし、「リボンのり」の有無も憶えないといけないから意外と大変。
さらに、全て同じ値段というわけもなく、お皿の色は4色はあった。
これにワサビ塗布という余計な一工程が追加されていたとしたら、
時給をもう200円ほど請求していたところだった。
さて、勤務初日にして前線に配置された見習い寿司職人(16)は、
任務をまっとうできるのだろうか。
長くなったので一旦切ります。